☆第3分冊 PECSに惚れ込んでいる私を知りたい方のために
私は,成り行き上20世紀と21世紀にまたがって生きていく羽目になりました。幸か不幸か,次の世紀を生きることは決してないでしょう。20世紀を無我夢中で生きてきた私は,21世紀を少しばかり醒めた目で眺めながら生きていこうと思っています。そしてこれから先の人生の予定表をエクセルで作り,ファイル名を『後半生闊達生涯』としました。これからの私の仕事は,『広汎性発達障害』が中心になりそうだからです(『広汎性発達障害』と言う用語は死語になりそうですね)。
私にとって21世紀の前夜祭とでも呼ぶべき出来事は,2000年にロンドンまで出向きPECSの2dayワークショップに参加したことです。PECSというものを私に教えてくれたのは,当時ノースカロライナのTEACCHセンターに留学していた,村松陽子Drでした。当時は日本でPECSを学ぶことは不可能でしたので,ロンドンまで出かけたのですが,やはり,PECS発祥の地,米国デラウェア州で開発者ボンディ博士のワークショップに出ればよかったと今にして思います。
しかし,応用行動分析(ABA)についての素養もなく,聞き取りが苦手なのに英語でのワークショップに出たため,途中から頭の中に霧が立ち込め始めました。しかも当時のPECSマニュアルは初版であり,わずか50ページでした(現在のマニュアルは第2版で,400ページです)。帰国してマニュアルを読んでもよくわからず,実践には踏み出せませんでした。それでも興味は持ち続け,2002年に第1回PECS国際会議がロンドンで開催されたときには,こりずに参加しました。その会議で,もっとも感動したのは,米国のPyramid Educational Consultants社のコンサルタントであるスコットの実践報告でした。重度の知的障害と自閉症スペクトラムと思われる成人3名に対するPECSの成果の報告でした。
幸いにもその後,天才T.H.先生の力で,2003年に初めて日本でアンディ・ボンディ博士による2dayワークショップが開催され,その後も毎年続けられ,2006年からはピラミッド社の日本事務所が開設されて,今本繁コンサルタントにより国内で頻繁にワークショップが開催されるようになりました。実に喜ばしいことです。(残念ながら,今本さんは2015年に辞職されましたが,在職中のご功績には敬意を表したいと思います。)
2005年には,PECSマニュアルの監訳作業に取り組み,なんとか完成させることができました(ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン(株)に注文すれば手に入ります)。マニュアルを訳していると,PECSの実施経験がないと,どうしてもよくわからない箇所にぶつかり,やむをえず私もほそぼそと診療所外来でPECSを試み初めました。そしてあらためてその有効性,合理性,実用性に感服したのです。自閉スペクトラム障害の人のいわゆる問題行動〔私は問題提起行動と呼ぶことにしました〕を予防し,解決する上で,計り知れないほどの効果をあげることが期待できます。それも,薬物療法のように問題提起行動を封じ込めるのではなく,自閉スペクトラム障害の人のコミュニケーション・スキルを伸ばし,問題提起行動を取る必要をなくし,生活の質を高めることで解決していくのです。強度行動障害と言われている人たちが,強度行動障害から抜け出すための必須アイテムがPECSです。PECSの開発者アンディ・ボンディとロリ・フロストに,できるものならノーベル平和賞をあげたいとすら思うのです。(2019/11/14, 2021.9.7修正)
★「教育へのピラミッド・アプローチ」に索引がないのは不便なので、試作してみました。
★日本語で読めるPECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)の本がついに刊行されました。
★PECSのマニュアルに関するお知らせ
★京都府自閉症協会の機関誌「BEAM No. 140」(2021年3月8日発行)に掲載されました
★日本知的障害者福祉協会の機関誌「知的障害福祉研究 SUPPORT」の2019年4月号から6月号まで3回連載しました
★PECSをめぐる資料
★iPad用PECSアプリPECS IV+の動画集